小説

□似たもの同士
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雨の強く打つ音のよく聞こえる場所で、高尾は一人、い そいそと携帯の画面を眺めていた。 その表情は、普段の彼からは想像もできないような険し いもので、近寄りがたいオーラが漂っている。

「てっちゃーん、全く…てっちゃんってば」

さっきからこの言葉の繰り返しで、イライラと携帯のボ タンを弄っていた。 そもそも、この場所に集まろうといったのは黒子で、集 合時間から10分以上は経っている。たかが10分だ ろ?と思うかもしれないが黒子の事を友達以上の感情で 思っている高尾には「来ない」というイライラではなく 「心配、探しに行きたい」の方のイライラが募ってい た。

「はー、探しにいこっかなー。あ、でもすれ違ったら嫌 だしな……あ。」

ひとり心中会議を繰り広げている高尾の近くに後ろから やってくる人影が目についた。後ろといえば死角以外の なにものでもないが、鷹の目を持っている高尾には死角 など、ない。

「てっちゃん!?…て、は?」

目的の主かと思い、いつもの明るい表情を作り直して振 り返ってみれば、そこには綺麗な黒髪で片目が隠れてお り、泣き黒子が印象的な美人な男が立っていた。

意外な人物の登場に、高尾は一瞬体を強張らせたが、相 手を一瞥すれば帯の色が青な為、上学年だということが 分かる。ここに用があってきたのだろうか?だが、こん な雨の中やってくる奴は中々いない。しかも、ここは依 然、高尾と黒子がサボった(主に高尾の強引さで)時に見 つけた穴場だ。高尾の知る限りでは誰一人この場所を 知っている人はいないように思う。

「あ、ごめんね。テツヤは少し用事があるって言ってい たから伝言を頼まれたんだ。高尾くん、だよね?」

「そ、そうっす、伝言…ですか?」

テツヤ、その名前を聞いて高尾は安堵の息を漏らした。 ついでに自分の名前も出てきたのだから、嘘ではないの だろう。

「あ、自己紹介が遅れたね、2年の氷室辰也だ。テツヤ とはちょっとした繋がりがあってね」

和気藹々と黒子との繋がり、思い出話を話す目の前の 男…氷室に微々たる苛立ちを覚える。

(俺、てっちゃんからなにも聞いてないんだけど。)

そうだ。目の前の男は自分の事を黒子から聞いていると 言っていた。なのに、自分は目の前の相手をなに一つ知 らない。

(俺は、てっちゃんの一番の友達だと思ってたけど…)

実は違うのかもしれない。実際、自分が一方的に押しか けているだけで、黒子には迷惑をかけていたのかもしれ ない。そう思うと胸のあたりが痛くなるのを感じた。 普段、あれだけ楽観的だとか、明るくて羨ましいといわ れる高尾でも、悩み事だってあるし、気に病むこともあ る。つまりは同じ人間なのだ。

「ああ、それで伝言だったね。テツヤは―…と言ってい たよ。…全く、仲が良くて羨ましいね。」

「え。」

高尾は目を見張った。肝心な、伝言の内容が聞こえな かったことよりも、氷室の最後の言葉にだ。さっき自分 は氷室と黒子の仲に嫉妬の念を抱いていたというのに、 今、氷室は自分と黒子の仲に嫉妬をしている。そのおか しさに高尾は思わず笑い出した。その様子を見ていた氷 室はギョッとして「what's the matter?」と聞いてきた が、笑い始めた高尾には関係のない。むしろ、英語のせ いで「ちょっ、発音良すぎて聞き取れなかった」と更に 高尾の笑いのツボを煽ってしまったらしい。

「ふ、ははっ。まぁ、これから俺も友達ってことで!氷 室さん!」

「え?なに言っているんだい?…ライバルだろう?」

「え、…み、ミスター氷室?どうしたんすか?」

「見たところ、俺の勘だけど高尾君…カズナリでいいか な?も、テツヤの事が好きなんだろう?勿論、ライク じゃなくラブのほうで、」

「あ、はい。まぁ…ん?ええええええええ!?ま、まさ か氷室さんんんんんん!?もってことは?もってこと は!」

「うるさいよ、カズナリ。…そうだよ、俺もテツヤを愛 してるんだ。」

えええええ!?とオーバーリアクションをする高尾を尻 目に氷室はふっ、と笑みを溢した。以前黒子が「氷室さ んも、一回高尾君と話してみてください。気に入ると思 いますよ」と言っていたのを思い出す、当時はなぜ他の 男の名前なんかだすんだと若干不機嫌になったが、今な ら納得である。

(…テツヤは、良い友人に恵まれているね)

まあ、下心ありありな友人だけど。そう思って氷室は再 度、笑みを零した。
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